天然酵母のスコーン

当店では「スコーン」といえば「天然酵母のスコーン」をいいます。

外はしっかりと焼いて、中はしっとりした食感、粉やバターの味が味わえるスコーンです。

 

一般的なスコーンは、粉、バターなどの油脂、卵や乳製品などの材料を混ぜて

ベーキングパウダーやベーキングソーダで膨らませて焼くというもの。

ベーキングパウダーを使ったものは、当店ではビスケットとなります。

 

焼き上がった桜とホワイトチョコ、柚子とホワイトチョコ、いちじくとクルミ、紅茶とオレンジなど
焼き上がった桜とホワイトチョコ、柚子とホワイトチョコ、いちじくとクルミ、紅茶とオレンジなど

                        スコーンとは

スコーン(Scone)は、イギリスのスコットランド地方で生まれたパン菓子で、

もともとは粗挽きの大麦粉を使って、型抜きをせずそのまま焼いた

バンノック「bannock」というビスケットの一種だそうで、

19世紀半ば頃からベーキングパウダーやオーブンの普及によって

現在の形に近づいたようです。

 

名前の由来は、その焼き上がりを横から見ると、

膨らんだところがごつごつとした石に見えることから、

スコットランド王の戴冠の玉座として用いられた

運命の石(the Stone of Destiny)を由来とする説もあるとか。

 

この戴冠式を挙げた場所が、現在のバース近郊のスクーン城(Scone)で、

ここからスクーンの石(The Stone of Scone) とも呼ばれていて、

同じスペルでスコットランドつながりとくれば関係があるかも?

 

Scotland's Stone of Destiny

the Stone of Destiny in Edinburgh Castle.

 

スコーンの形はこの石を連想させる形に焼き上げられることが多く、

その神聖な形からナイフは使わず、

手で横半分に割って食べるのがマナーといわれているとか。 

 

 このスコーンはスコットランドからイギリス全域に広まり、

その地域で食べやすいスタイルで浸透し、

今では、18世紀後半に上流階級で流行した“アフタヌーンティー”に

欠かせないお菓子のひとつとなっています。

     

天然酵母と言えばパンですが、

天然酵母を使った焼き菓子も素材そのものが活きた、

滋味に富んだ深い味わいがあります。

 

当店で使っている酵母は「ホシノ丹沢酵母」。

 

今まで自家製のブドウ酵母など、いろいろ試してみたこともありましたが

酵母を起し、化学薬品に頼らずにその品質と発酵力を維持するというのは大変で、

雑菌が入ると酸味が出たり発酵力に安定性が望めません。

 

その点、ホシノ酵母は使いやすい酵母で、

顆粒状の乾燥酵母をぬるま湯で溶いて、それをまる1日以上かけて起こして使います。

起こした酵母と材料を混ぜ合わせ、成型して4日程度発酵させてから焼き上げます。

 

 

ホシノ丹沢酵母とは?


 パンの発酵に必要な菌である酵母菌、植物性乳酸菌、麹菌の3種類を

小麦粉、米等の天然の原料で自然培養し、商品化したものがホシノ天然酵母パン種です。

これは東京都町田市で現在の会長、星野益男氏の父星野昌氏が醸造業の経験を活かし、

30余年の歳月をかけて完成されたものとのこと。

 

ホシノ天然酵母のひとつである丹沢酵母は、神奈川県の丹沢、葛葉川上流の湧き水の出る辺りで、

山林の空気中に漂う野性酵母が好む培地を作り、着床させるという方法で星野氏自らが酵母を採取し、

大吟醸酒に使用される麹、植物性乳酸菌と併せて造りあげた酵母だそうです。

 

従来のホシノ天然酵母より上品な香ばしさ、粉の深い味わいを引き出すものとなっているそうで、

発酵力が強く、生地は緩みにくく、しっかりしているのが特長とのことです。

 

詳しくは 有限会社ホシノ天然酵母パン種HP 

 

 

今回の仕込は季節限定の「桜かのこ」と「柚子とホワイトチョコ」、「紅茶とオレンジ」の3種

 

「桜かのこ」は塩漬けした南伊豆産の桜葉とぬれ甘納豆

「柚子とホワイトチョコ」は柚子ピールとホワイトチョコ

「紅茶とオレンジ」は紅茶(アールグレイ)の茶葉とオレンジピールの組み合わせです。

 

これらの副素材を小麦粉、バター、牛乳、卵、粗精糖、塩、起こした酵母と混ぜ合わせます。

 

混ぜ合わせたものをまとめて成型し、低温で2日から4日程度

酵母菌による発酵に任せます。

 

季節によって温度や湿度の違いで発酵する時間も違うので、

様子を見ながら待ちます。

 

経験上、2日置いたものはどっしりと、

4日置いたものは軽い食感になるようです。

 

天然酵母のスコーンは時間と手間が作る焼き菓子で、

人間ができるのは、材料を集めて、計って、混ぜて、成型をして焼くことで、

実際にスコーンの美味しさを作っているのはこの酵母菌による発酵なのです。

 

4日経ったスコーンの生地です。

まだ冷たいので室温に戻してから焼き上げます。

 

色々な形にしてみましたが、

この石の形が最も食べやすく、天然酵母らしい味わいがあると感じています。

 

オーブンで焼くこと約30分。

やっと焼き上がった紅茶とオレンジのスコーンです。

 

ベーキングパウダーを使ったスコーンのように、

しっかりとふくらんでいるわけではありませんが、これでちゃんと焼き上がっています。

 

香りは紅茶(アールグレイ)の上品な香りとともに、

粉やバターがちゃんと焼けた焼き菓子のよい香りもします。

 

天然酵母のスコーンは、プレーンだとよく分かるのですが、チーズのような香りがします。

副素材が入ったものは、素材そのものが強く香るのではなく、

バランスの取れた香り、粉やバターと調和した香り、いわゆる美味しい香り、幸せな香りがします。

 

この美味しい香りと、美味しい味は同じなのかもしれません。

当店では、スコーンだけでなく他の焼き菓子も、

この美味しい香りがするかどうかを忘れずにやっていこうと心がけています。

 

食べてみると外はガリッと、中はしっとりとした食感。

紅茶の程よい香りと、ときどき当たるオレンジピールがアクセントとなって美味しい。

噛むほどに味わい深く、心和む味わいです。

 

天然酵母のスコーンは割と日持ちがします。

そして日が経つにつれ味わいに変化が感じられます。

甘さやしっとり感が増してきて、お菓子としての熟成を感じます。

これもこのスコーンの愉しみのひとつです。

 

ただし、このスコーンは手間と時間がかかるため、一度にたくさん作れません。

一日に焼ける数もそう多くはありませんので、品切れすることもあります。ご承知おきください。

 

 

余談ですが、当店でお出ししているベーキングパウダーを使ったビスケットは、

天然酵母のスコーンとは反対にできるだけ手早く焼き上げます。

 

ベーキングパウダーの臭いが出ないよう配合を工夫したり、

手早く仕上げるようにしています。

 

家庭のおやつは手早さも必要。

おなかがすいた時に、サッと作ってもらえるおやつは何よりも美味しい。

 

焼き菓子屋にはそんな家庭でのおやつもありますし、

手間と時間をかけたものもあります。

どちらも大切に焼き上げる焼き菓子です。